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東京高等裁判所 昭和23年(ネ)435号 判決

被控訴人が昭和二十三年三月二十六日附をもつてなした控訴人の訴願を棄却する旨の裁決は、これを取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴入の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、控訴人が本件訴願棄却の裁決の送達を受けたのは昭和二十三年四月六日である。被控訴人の後記(一)(二)の主張事実を否認する。本件農地買收計画の縱覧期間は、昭和二十二年十二月二十四日から同月二十八日まで及び昭和二十三年一月六日から同月十日まで、と定められ、控訴人は右縱覧期間内に池田町農地委員会に本件農地買收計画に対する異議の申立をしたのであるから、該申立は適法である。仮に右縱覧期間の定め方が不適法ならば、本件農地買收計画も不適法となるものといわなければならない、と述べ、被控訴代理人において、(一)訴外池田町農地委員会は本件農地買收計画について、昭和二十二年十二月二十四日にこれが公告をなし、且つ公告の日から十日間同町役場において買收計画の書類を縱覧に供した。從つて右農地買收計画の縱覧期間は、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第六條第五項、昭和二十二年農林省告示第二十五号「自創法第六條等の規定による縱覧期間の計算に関する件」により、昭和二十三年一月四日をもつて満了した。然るに控訴人が右買收計画に対し異議の申立をしたのは、右縱覧期間経過後である同年同月八日であるから、右は同法第七條第一項但書により不適法である。故に本訴は行政事件訴訟特例法第二條により、適法な異議申立がないものとして却下さるべきである。本件農地買收計画について、控訴人主張のような縱覧期間が定められたことは否認する。仮にかかる縱覧期間が定められたとしても、農地買收計画に対する異議申立の期間は法定期間で買收計画公告の日から十日であるから、本件異議申立期間は昭和二十三年一月四日までである。(二)本件農地は昭和二十年十一月二十三日当時は訴外榛葉太生の所有であつて控訴人の所有ではない。仮に控訴人がその主張のように昭和十四年三月五日右訴外人からこれを買受けて所有権を取得したとしても、昭和二十三年十一月二十三日当時、控訴人は未だ本件農地につき右賣買による所有権移轉の登記を経ていないから、民法第百七十七條により、控訴人は右所有権の取得を被控訴人に対抗できない。なお本件裁決が控訴人主張の日に控訴人に送達されたことは認める、と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(立証省略)

三、理  由

訴外池田町農地委員会が昭和二十二年十二月二十三日控訴人主張の本件農地について買收計画を定め、同月二十四日にこれを公告したことは、当事者間に爭なく、右農地委員会は本件農地が昭和二十年十一月二十三日現在において訴外榛葉太生の所有に属し、自創法第三條第一号に該当するいわゆる不在地主の小作地であるとして、右買收計画を定めたものであることは、成立に爭ない甲第一号証によつて明白である。しかして控訴人が本件農地は当時控訴人の所有であるとして、昭和二十三年一月八日右買收計画に対し右農地委員会に異議を申立てたところ、右農地委員会は同年一月十七日右異議申立を棄却する旨の決定をしたこと、控訴人は同年二月九日右決定に対し被控訴人に訴願したところ、被控訴人は同年三月二十六日右訴願を棄却する旨の裁決をなし該裁決は同年四月六日控訴人に送達されたことは当事者間に爭ないところである。

被控訴人は、控訴人のなした右異議申立は異議申立期間を経過した後になされたから不適法である、と主張するから審按するに、成立に爭ない甲第二十、第二十一号証によると、池田町農地委員会は本件農地買收計画の書類の縱覧期間を昭和二十二年十二月二十四日から同月二十八日まで及び同二十三年一月六日から同月十日までと定めて告示したことが明かであり、被控訴人主張のように右農地委員会が本件農地買收計画の公告の日たる昭和二十二年十二月二十四日から十日間書類を縱覧に供した事実を認むべき証拠はない。しかして自創法第六條第五項によるし、農地買收計画の書類は買收計画公告の日から十日間縱覧に供すべきことを定めているが、右縱覧期間は專ら異議申立人の利益のために設けられた規定であるから、その期間は必ずしも買收計画公告の日から起算して十日間たることを要せず、期間を区分して前後を通じて十日の期間を定めても、別に異議申立権者の不利益を生じないから、あえてこれをもつて違法でないと解すべきであり、從つて右農地委員会が本件農地買收につき定めた前記縱覧期間は適法であるというべきである。しかして自創法第七條によれば、農地買收計画に対する異議申立は、縱覧期間内にすればよいのであるから、控訴人のなした前記異議申立は、右に定められた縱覚期間内になされたものであること明かであるから、適法であるといわなければならない。被控訴人は、異議申立期間は、買收計画公告の日から十日の法定期間であるから、控訴人のなした異議申立は期間経過後になされたものである、と主張するけれども、被控訴人の右見解は当裁判所の採用し難いところである。

次に控訴人がその主張のように昭和十四年三月五日本件農地をその所有者である榛葉太生から買受け所有権を取得したかどうかを審按するに、原審証人平林瑛正、西山福治、原審ならびに当審における証人榛葉太生及び控訴本人中村伊松の各供述と右榛葉太生及び控訴本人の供述(当審)により眞正に成立したものと認められる甲第三ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九ないし第十七号証ならびに成立に爭がない第十八号証を綜合すると、控訴人は昭和十四年三月五日榛葉太生から、同人が訴外荻窪恒市に小作させていた本件農地を代金二千五百円で買受けた上、これを控訴人の相続人名義に所有権移轉登記をすることとしたが、控訴人は当時訴外株式会社角三製糸所が訴外池田産業銀行に対して負担した債務の保証をしていた関係上、同銀行から差押を受ける懸念があつたため、その移轉登記を後日に延期しておき、移轉登記をするまでは本件農地の管理を榛葉に托し、從前どおり同人において荻窪から小作料を受取り、公租公課等の費用を差引いて残余を引渡してもらうことを約し、そのとおり実行して來たが、控訴人の相続人は昭和二十年九月に死亡したので、同年十二月八日控訴人名義に本件農地の所有権移轉登記をした(登記の点は当事者間に爭がない)ものであることを認定するに十分であり、右認定に反する原審ならびに当審証人荻窪恒市の証言部分は前掲各証拠と対照して措信できず又被控訴人提出のその他の証拠によるも未だ右認定を覆すに足りない。然らば本件農地は昭和二十年十一月二十三日当時控訴人の所有であつたものというべきである。被控訴人は、仮に控訴人がその主張のように本件農地を榛葉太生から買受け所有権を取得しても、昭和二十年十一月二十三日当時未だその所有権取得登記を経ていなかつたのであるから、控訴人は民法第百七十七條により本件農地の所有権取得を被控訴人に対抗することができないと主張するけれども、自創法による農地の買收は同法第一條に掲げる目的を達成するために、政府が公権力をもつて一方的に農地の所有権を取得するものと解すべきであるから、一般私法上の不動産の取引関係とは全くその性質を異にするものであり、從つて私法上における不動産の物権変動の安全を確保するために、第三者に対する対抗要件を規定した民法第百七十七條の規定は、自創法による農地の買收には、その適用がないものと解するを正当とする、故に被控訴人は同條を援用して控訴人の本件農地の所有権取得を否定することはできないから、被控訴人の右主張は採用することができない。

然らば池田町農地委員会が、昭和二十年十一月二十三日当時本件農地が控訴人の所有であつたのに拘らず、これを榛葉太生所有にかかるいわゆる不在地主の所有農地として買收計画を定めたのは違法であり、これに対する控訴人の異議申立を棄却した被控訴人の裁決は失当であつて、これが取消を求める控訴人の本訴請求は正当である。然らば控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取消すべきである。よつて行政事件訴訟特例法第一條、民事訴訟法第三百八十六條、第九十六條、第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川昌勝 浜田宗四郎 菅野次郎)

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